伺かのこととか
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マイマイトーカ短編 #2
書いたものの納得がいかず放置していた短編ですがこの機会に出してしまいます。3話は途中まで書いてる。

マイマイトーカ短編 #1
あの衝撃の朝から一日中、二人は家の大掃除に励んだ。火のついた桃歌を止める事はもはやできなかったのだ。荷物を全部捨てたと豪語した彼女だったが、家具や本や小道具などは、全て「いるもの」と「いらないもの」に分類されていた。といっても、本当にいるかどうかを確かめるのは苺々の仕事だが。しかし驚くべき事に、本当にいらないものといるものがしっかりと振り分けられていた。何故こうもうまく選別できるのか、苺々は不思議でならない。

◇ ◇ ◇

「と、こんな感じね」

苺々は向かいに座る少女を見つめた。少女…桃歌はマグカップに瞳を落として何か考えるように俯いている。今は空気も鳴らぬ、しずかな夜だ。

少女桃歌があの場所でああしていた理由を苺々は少し知っている。「塔」の中央部から配信される「塔」全域を対象とした唯一の公式なニュース。3月前くらいだろうか、そこでそれなりに大きく取り上げられていた。とある密輸艦が「塔」へ不法侵入し、その際に事故を起こしたのだ。密輸されたのは、獣と人との姿を併せ持つ生き物達。そう、苺々や桃歌の世界の者だった。

異世界のものは、別の世界に持ち込めば珍重される。端的に言えば、そういった市場に出せば膨大な利益を得ることができる。故にそれを狙い、世界渡りを目論む者は絶えない。もちろんそれには並ならぬ労力…または、ほんの奇跡…を要するし、その技力・能力を持つ者も稀だ。そして仮にうまくいったとしても、異世界のものが、その世界にどんな影響を及すかも分からない。故に世界渡りを禁忌としている世界も多い。

しかしそれでも世界渡りを試みる者は絶えない。桃歌達を乗せた船の持ち主達もそうだった。……だが、あえなくそれは失敗に終わった。船は世界の壁を越えることができず、大破した末「塔」に漂着したのだ。世界同士の経由路でもある「塔」は、こういったどの世界にも属さないものをよく引き寄せてしまう。そして「塔」のそういった者への処罰は厳しい。この自由な世界で最も厳しいといっていい。でないと、「塔」を経路とし、いくつもの世界の均衡を壊し、挙句には崩壊を招いてしまう可能性があるからだ。

苺々が、彼女の現在の居住地である地球に桃歌を連れて来てしまった事も、「塔」の法としてギリギリのラインだ。それが黒になる前に、苺々は事を終えてしまわないといけない。改めて口を開く。

「あなたがこうして「塔」へ来てしまった訳は、おそらくそれだと思います。時期的にも重なるし。…ただ、あなたがその間どうしてそれを知らずにここまで来れたのかが私は不思議ですね。全くニュースを耳にしなかったのかしら。新聞ならどこでもありますし、なんらかの方法でニュースを聞いていれば、こうした被害にあったあなたが世界に帰る方法が分かったはずなのに」

苺々はテーブルの上のコンビニ弁当の蓋を空になった箱に被せた。遅い夕飯に桃歌がおいしいと目を輝かせていったそれだ。桃歌がマグカップを抱えたまま言った。

「自分でも、どうしてなのか分かりません。ただ、逃げ回るのに精一杯というか…」
「件の集団は、事故で死んだ残りは「塔」で処罰されました。おそらく極刑です」

桃歌がわずかに目を見開いた。

「……事故のことは……とても。とてもよくおぼえています。爆発しました。燃えました。押しつぶされました。みんな、叫びました。一緒の船の人たちはみんな散り散りに逃げました。他の人がどうなったか知らないです。でもわたしは、どんどんどんどん、なるべく遠くへ、暗い場所へ、身を隠せるところへ逃げました。新聞はみたことがありません。わたし、わたし、」
「もういいです」

苺々は彼女にこれ以上言葉を続けさせられないと思った。琥珀の瞳は、幼さを残す顔は、しっかりのした声は、びくとも動かなかったが、それでも危機迫るものを感じさせた。

「あなたが元の世界に帰る方法を私が教えます。どちらにしろもう長くはここに居られない。明日、一緒に「塔」の中心部に行きましょう」

桃歌が顔を上げた。

「もう、居れない?」
「そう。別の世界に所属する貴方がこの世界に滞在できるのは3日間までですよ。昨日の晩貴方がここに来たので、ちょうど1日目が終わったくらいね。もし3日間を過ぎたら、貴方の所属世界がこちらに移ってしまって、今度はあっちに3日間しか居られなくなるわ」

「そうなのですね」
「何も知らないんですね」
「そうみたいですね……」

ほうと納得顔でコーヒーをこく、と一口やる桃歌。続く言葉はなく、二人の間にはまた静かな時間が流れた。

「わたし、もしかしてすごい事にまきこまれました?」
「今更かよ」
「ふえ?」

ぽかーんと首をかしげる桃歌に苺々は呆れた表情で肩をすくめた。そして、気付かなかった。マグカップを抱えてどこか憂いて遠くを見つめている彼女に。

「とにかく明日、「塔」へ向かいましょう。私も、ちょうど済ませないといけない仕事を抱えていますし、ちょうど良いわ。……ところで」
「あ、はい…?」

苺々を取り巻く空気が変わった。

「私もそうそうお人よしではない事を貴方はご存知?」
「え?」
「そうねぇ。私がいなかったら貴方はずうっとあそこでああしていた訳だし、寝る場所も食べる場所も提供したわけだし。それなりの対価を支払ってもらってもいいと思うの」
「そ、そうですよね。わ、わたし、なにすれば…?」
「今晩、私と寝なさい」
「え…。はぁ、…いいですよ?」
「…随分と物分りのいい子」

苺々は席を立つとゆっくりと彼女の手を取った。


◇ ◇ ◇


「ううっ…ひどい…ひどいですよお、苺々さん」
次の日ベッドの上にあったのは、シーツに身をくるみぐずぐずと泣く桃歌の姿だった。
「いや、あなた良いって言ったでしょう…」
「こ、こんなことするなんて、聞いてないですよぉ…う、ひっく。ただ、一緒に寝るだけって…ううっ」
「いや、寝るって言ったら普通こういうことでしょう…」

さっきからずっとこの調子だ。一足先に服を着替えた苺々は頭を抱えた。しかしこの娘が生娘だったとは。苺々だって一度は覚悟を決めた事だってあるのに、体も汚さず、使わずにどうやって生き延びてこれたのだろう。少し不思議だ。

「…でも感じてたくせに」
「……っ!!! 苺々さんのばかーっ!」

朝食のトーストが焼けた匂いがした。
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