伺かのこととか
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マイマイトーカ短編 #1
ネットができない間に書いていた小説をup。正式なページができるまでは仮なので、これからまた設定が変わる可能性があります。

それなりにネタバレ。普通にトークを聞いていれば分かるくらいのレベルですが。二人の出会いの物語です。あと、ゴーストのマイマイトーカと完全にイコールじゃないかもです。

連載ものです。区切りはいいです。
彼女をみたとき、一目で「そう」だと分かった。同胞であるせいだろうか、師に仕込まれた己の特殊な能力のせいだろうか、それとも全くの偶然かもしれない。ただ、ああ、そうなのだ、と思った。苺々が立ち止まると、店の主人は床に座り込んだまま、かったるそうな瞳を彼女に向けた。

「……どれが欲しいのかね」
「あれは」

苺々は無言でテントの奥に縮まる白の固まりに目をやった。店の主人が一拍置き、煙りをくゆらす。

「売り物じゃないよ」

しかし苺々は、その白から目を話さなかった。囲いに放りこまれた色様々な雛鳥たちを跨ぎ、奥へとゆく。

「おい、嬢さん」

男の声が後ろから聞こえるが苺々は歩みをとめなかった。ごそり、固まりがみじろきをする。それは、小さな子牛だった。子牛はたじろくように一歩後ずさる。男がついに立ち上がって、この風の変わった背の低い女の元へ歩む。

「この子を下さい。お金は、これでいいですか」

苺々が顔を上げて言った。その手には、子牛一頭買うにはいささか大きい額の硬貨。彼女の薄緑のショートヘアが顔の横で揺れた。

「……だからこの子は売り物じゃないよ」

苺々は男の言葉を最後まで聞かずに、子牛の耳もとで言葉を呟いた。それは、彼女の母国の言葉。それを聞いたとたん子牛が耳をふるわせた。更にひとことふたこと、言葉を続ける。子牛が頷いたように見えた。

「この子もそれで良いそうです」

言葉は、ありのままだけを伝えるように淡々としていた。だが店の主人を驚かせるには十分だったようだ。

「本当かね?」
向けられた声は苺々にではなく、彼女の側に立っている子牛だ。子牛は、今度こそコクリと頷いた。


 ◇ ◇ ◇


彼女がその地に足を踏み入れたのは偶然だった。いつもの仕事帰り、通り道でしゃんしゃんという鈴の音を聞いた。そう言えば、ここらでは時々祭りが開かれるときく。いや、正しくは祭りがある空間と繋がるのだ。苺々が足を一歩踏み出すと、そこはだいだいの明かりが薄桃樹の並木に吊られた、夜の街道だった。鈴の音は更に大きくしゃんしゃんと響き、どこからか笛の音も聞こえてくる。道々では人々が歩き、はしゃぎ、歌い、様々な出店がそれぞれの音や匂いや色を発していた。

人込みは、嫌いだ。賑やかな場所も、嫌いだ。自分とは違い過ぎる気がして気が重くなる。だがその日はそれでもそこを立ち去らなかった。懐かしかったのかもしれない、この場所が自分の生まれ育った村の祭りに、少しだけ似ていたのだ。……そんな場所、なおさら回避したいと思うはずなのに、自分も少し疲れているのかもしれないな、苺々は内心ごちた。子供の頃はこんな村がたまらなく嫌だったのに。


そして、たまたま行き着いたのがあの店だった。


「赤の他人に付いてくるなんて、あなたも案外浅はかですね。ステーキにして食べられてしまうかもしれないのに」

苺々が呆れるように息を吐き出しながら言った。これが彼女のいつもの喋り方だ。意識はしていないのに、いつしかこのような喋り方しかできなくなった。ごそ、苺々の抱えるぼろ布がみじろく。

「それにしても、あなた重い。歩けばいいのに」

布の中には子牛がいた。小柄な苺々が抱えるには少々重い。歩こう、もしくはあちらの姿で、というのに、子牛は頑なに首をふった。事情は少し飲めている。しかたなしに苺々は自分を包むぼろ布を脱いで子牛に巻き付け抱え上げた。店主は少し名残惜しそうにしたが、笑って子牛を見送った。お前さんがそういうなら、きっと大丈夫なんだろうね、そう呟いて。


 ◇ ◇ ◇


祭りから抜け出すのは簡単だった。苺々が当たりもなく適当に歩くと、ふっと風景が変わり、そこからはもうあの賑やかな音も空気も消えた。子牛が軽く震える。今、二人の前に広がるのはガラスの螺旋階段だ。四方八方が透明だが、透明すぎて濁って見える。苺々は、鈍く青く見えるその階段をとんとんと降りていった。そして立ち止まると金色に光る鍵のようなものをチャラと取り出した。それは文字どおり「鍵」だ。苺々がそれで宙をねじると、がちゃりと鍵のあくような音がして別の空間が現れた。そこは真っ暗だが、彼女はそのまま足を踏み入れた。するともう彼女の背後にはさきほどの空間はない。新しく現れた階段をおりていくだけだ。これが、彼女が家に辿り着くまでの、いつも通りの動作。世界と世界を繋ぐ「塔」。「塔」との繋がりを断絶し、自分の今いる世界に戻るためのいつもの儀式だ。

「今日はもうおやすみなさいな。明日、ゆっくり話を聞かせて」

暗い部屋まで辿り着くと、子牛をベッドの上に降ろした。自らはごそごそと音をたて服を脱ぎ、ソファの上に寝そべった。…もっとも、ソファの上のものをフローリングに転がり落とす作業のあとで、だが。


 ◇ ◇ ◇


太陽が、眩しい。真っ白に眩しい。苺々はゆっくりと目を開いた。目覚めてこんなに日の光を眩しく感じるのは久しぶりだ。何となくよく眠れたような気もして、すがすがしい。……が、次の瞬間彼女は飛び跳ねた。

「んなっ!?」

部屋に、何もなかった。足のふみ所もないほどに物が散らかっていたはずの部屋から物が消えていた。更に、その床はぴかぴかと光り輝いているように見える。こんなにこの床がきれいだったのは見た事ない。そして、更に彼女が驚くはめになったのは……


「おはようございまーーす!」


頭に三角巾、身には白いエプロンを付けた少女がびっくりするような大声で苺々を出迎えたからだった。毎々の目が間違っていなければ、少女の手にはハタキがあるように見える。そして、銀色の髪から姿を現しているのは、2本の角と、垂れた黒い耳、独特のふさのある尻尾。……彼女だ。間違いなく彼女だ。これが、彼女のもうひとつの姿。獣化と人化。苺々の住む世界の生き物が、持っている力。

「あ、びっくりさせちゃいましたよね? ごめんなさい。この部屋、すっっっごく汚かったから掃除させてもらってたんです。このお家、物が多いですねー、びっくりしちゃいました! お掃除のしがいがありますよ。あっ、使用済みのちり紙とか、いかにもいらなさそうなのは捨てちゃいましたのでー。あと下着姿だと風邪ひきますよ。服、新しいのを出しておきました。ほつれも取っておきましたよー」

一気にその台詞を言いあげると、埃で黒くなった頬を満足げに拭う。……心無しか、彼女が光り輝いているように見える。

「な、な、な、な、な、な、なななな!」
「?」
「何てことしてるのーー!!」
「…掃除?」
「いやっ、それは分かってますって! ほ、ほら、一晩の間にいったいなにがどうなるとこうなる訳!? っていうか、消えた荷物は?」
「……いかにもいらなさそうなのは捨てちゃいました?」
「うわあああ!」
「はわあああ!?」

苺々は頭を抱えて叫んだ。

「あの部屋中の大量の荷物全部捨てちゃったって言うの!? それどこにやっちゃったの!? うわあああ! 馬鹿ー!」
「あああぁぁ、ごめんなさい、ごめんなさいー! に、二階の空き部屋に取りあえず置いてますう。本当にごめんなさいぃ! でもこんな汚い部屋に住んでたら腐っちゃいます! 病気になっちゃいます! こんなに汚い部屋見た事ないです。住んでちゃ駄目です! 絶対片付けなきゃ駄目ですー!」

昨日まで牛だった少女が一生懸命といった様子でばたばたと手ぶり身ぶりで訴える。二階に駆け上がろうとしていた苺々だったが、その姿を見て脱力したようにどっとソファに身を落とした。

「ふ。ふふっ、ははっ」
「あ、あの…?」

その様子を銀髪の少女が遠慮がちに覗き込む。

「そうですね。これでいらないものが片付きました」
「で、でも……」

少女がなおもはらはらと言葉を続けていたが、苺々は一人でくつくつ喉をならした。……目が覚めたら、部屋からまっさらと物が消えている。とはいえ盗賊に荷物一式盗まれたわけでもなく、犯人は苺々の目の前でエプロン姿で「掃除しましたよ」ときた。こんな経験始めてだ。呆れを通り越して感心した。

そうだ、考えてみたら部屋いっぱいに散らかっていたのは、もう読む事も無い本に、郵便受けに入っていた下らないちらし、時間潰しに買った別段興味もない雑誌に、食べ終わったインスタント食品の容器。レシートや使い終わったティッシュでさえ、捨てもせずかさ張るままにこの空間に積み上げていた。そうだ、いらないものばっかりだ。

……しかしこの子は何者だ。赤の他人に付いてきて、あまつさえその部屋の掃除まで始めるなんて。訳の分からない子。そして、そんな赤の他人をこうして家まで連れて帰った自分も訳が分からない。分からない事だらけだ。だけど、不思議と悪い気はしない。

「…あなたって変な子。名前はなんて言うの?」

笑っている内に滲んだ涙を拭いながら苺々は少女を見つめた。

「はい、桃歌っていいます!」

桃歌と名乗ったその少女は、花が咲いたように微笑んだ。


>>マイマイトーカ短編 #2
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