伺かのこととか
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二人のとある一日
桃歌がすばらしく手の込んだお菓子を作るとき。
それは、危険信号が鳴り響くとき。

「うわ」

苺々は冷蔵庫を開けたまま立ち尽くした。冷蔵庫の真ん中に、自分が主役だとばかりに鎮座していたのはケーキだった。小さなホールの、まっしろな、それはそれはすばらしく美しいデコレートが施されたケーキだった。よろり、苺々は後ずさる。そのまま呆然と冷蔵庫のドアを閉める。きれいなケーキだった。すんごいきれいなケーキだった。いつもより明らかに手がかけられていた。





「…どうしよう」

命からがらリビングへと戻ってきた苺々は、クッションを抱え込みソファの上で丸まっていた。何か自分は失態を仕出かしただろうか。頭をフル回転させる。

「駄目だ。思い当たることがありすぎる」

それはどうかと思うが、緑の瞳、緑の髪、緑の服を着た、緑の耳の、まるでカエルみたいな少女は真剣そのものである。途方に暮れた表情でソファに沈むカエル女。彼女のまなうらに浮かぶは、ひとりの少女。銀色の髪、琥珀色の瞳。いつも穏やかに笑みを浮かべている彼女の同居人。……そして、彼女――苺々の、この世で一番大切な、愛する人でもある。

「桃歌…」

穏やかな少女……桃歌は、怒るということをしない。いや、苺々の部屋が余りにも汚かったり、苺々の女遊びが余りにも酷かったり、彼女が余りにも体を大事にしなかったりすると、桃歌だって怒る。しかしそれは、「叱る」といったもので、どちらかというと苺々の為に行っているものだ。決して、桃歌が腹が立ったからだとか、桃歌が悲しかったからだとかではない。つまり、桃歌は自分の負の感情を、感情のままに出すことができないのだ。彼女が苛立ってるからなどという理由では、彼女は爆発することができないのだ。そして、その感情がどこに向かうかというと――お菓子だ。彼女の大好きなお菓子作りに没頭することで、彼女は感情を吐き出すのだ。

苺々は、それに気づかないほど鈍感ではなかったし、桃歌を愛しているが故に彼女の感情の機微な変化にも敏感だった。それに、相手の行動パターンがある程度理解できるくらいには、二人は共に時を過ごしていた。

職人が作った装飾品、あるいは最上級のレースかのごとく、美しくクリームがデコレートされたケーキを思い出す。波打っていた。花咲いていた。渦巻いていた。クリームが。あの精巧さから考えて、桃歌の溜まったフラストレーションはかなりのものだと考えられる。どうしようどうしようどうしよう怖い。考えるんだ、何が彼女をこうまでさせてしまったのか。


半ば蒼白になりながら必死に記憶をたどる苺々。その前に、ひとつの影が立った。

「あれえ苺々ちゃん。今日はお仕事じゃなかったのー?」

ふんわりと、気持ちよく気の抜けた声。牛の耳と角と尻尾。桃歌その人である。

「と、桃歌っ!」

ぴしゃんと苺々の背筋が伸びた。その深い翠玉のような瞳は、怖々と目の前に立つ少女へ向かう。その少女はというと、頭には三角巾、大きなポケット付のエプロン、手にははたきという、完全お掃除ルックで、まあるい目を苺々に向けていた。

「あああええと、はい今日は仕事が早く終わったんですよ。それより桃歌、掃除ですか?」

見れば分かるだろうに。上ずりすぎて頭のてっぺんから出ているような声で、苺々は言った。その額には、冷や汗すら見える。すぐにくすくすという声が聞こえ、苺々はびくりと震えた。

「苺々ちゃんどうしたの? 敬語になってるよお」

桃歌は楽しそうに笑う。人前ではいつも敬語を、表情を崩さない苺々。そんな彼女がそれを崩すのは、心を開いた桃歌の前でだけだ。それが急に敬語に戻り、しかし表情は崩れまくっているので、桃歌は思わず笑ってしまった。

「あ。いやこれは何でもない…わよっ。そ、それにしても桃歌。あなた最近、その、どう? 疲れは溜まってない?」
「……どしたの苺々ちゃん? わたしは見ての通り、げんきだよお」

首をわずかに傾げ、きょとんと苺々を見つめ、そして軽く踵を上げガッツポーズする桃歌。いつもの苺々なら、可愛い!なんて言いながら、彼女に飛び掛っていたかもしれない。だが、今日は、それとは正反対である。桃歌が元気に振舞えば振舞うほど、苺々の表情は固まる。

「さ。わたしは掃除の続きするから。苺々ちゃんは、そこで休んでて!」

そんな彼女に気づいたのか気づいてないのか。桃歌は口元に笑みを湛えたまま、掃除を再開しようとする。苺々は反射的に立ち上がった。桃歌の手からはたきを取る。

「桃歌が休んでて。たまには私がやるから」

え。え。と繰り返す桃歌を苺々は無理やりに座らせる。そしてご丁寧にテレビの電源を入れ、そのリモコンを彼女の手に握らせ、ついでにテーブルの上の文庫本も適当にページを開いて彼女に押し付けた。最後のおまけに、さっきまで彼女が抱いていたクッションも。

「さ。さ。休んで!!」
「は、はあ……」

訳の分からない桃歌に、異様に張り切る苺々。珍しく元気に動き回る緑色の同居人を、桃歌は珍しそうに眺めた。





苺々の掃除はすぐに終わった。家事好きな桃歌がいるので、この家はいつも綺麗なのだ。仕方なく彼女のいるリビングに戻る。

「桃歌! 他にやることはない? 洗濯物取り込もうか? それともおつかいに行こうか? あ、肩揉んであげる!」

こんなことで、彼女の感情が晴れるとは限らない。しかし何かしなければと必死だった。あの桃歌の誰の心も溶かしそうな笑顔にだって、今日は裏があるように感じてしまう。というか、桃歌が笑顔でいればいるほど怖い。

なんとも危機迫ったような苺々の表情に、桃歌は首を傾げる。

「ぇ、もうなにもないけど……。本当に苺々ちゃんどうしたの? 熱、ある?」
「い、いやっ。いつも桃歌にはお世話になってるからっ。あ、そうだ。今晩私が夕飯つく……あ、いや、どこかに食べに行こうか?」

苺々は思いつく限りの全ての提案をした。
思い出す。今までに桃歌にかけた心配の数々を。迷惑の数々を。ステーキにして食べるつもりで彼女を縁日で買ったこと。彼女にほれ込み、彼女をこの家にずっと居させていること。仕事に明け暮れ、いつも一人で寂しい思いをさせていること。それなのにたまに女遊びをして朝帰りすること。体の心配をさせていること。酔っ払った自分を介抱させていること。家事全部やらせていること。たまに苛々を彼女にぶつけてしまうこと。彼女を抱いていること。彼女を心底頼りにし、依存し、すがり付いていること。……それでも、笑っている彼女。私に、安らぎを教えてくれた、笑うことを教えてくれた、生きることを教えてくれた、大切な、大好きな桃歌。

「……え? だって。忘れたの、苺々ちゃん」

桃歌の澄んだ瞳が、苺々を覗き込む。お互いに、きょとんとする。そんな時間がしばらく流れ。……それをくずしたのは、桃歌だった。

「そうだねえ。じゃ、家を出て?」

桃歌がにっこりと笑って言った。苺々がぶはっと吹いた。何かが来るとは思ったが、まさか家を出ろだなんて。桃歌の怒りはそこまでだったのか。苺々はしなしなのよれよれになりながら「はい…」と呟いた。とぼとぼと玄関に向かうその背に、「夜になったら戻ってきていいよ」と桃歌は声をかけた。





「おかえり、苺々ちゃん!」

桃歌の弾んだ声が、恐る恐るドアベルを押した苺々を迎えた。桃歌の手が、苺々の手を取りリビングまで引っ張って行く。オレンジの優しい光の方へ向かってゆく。そして、

「ほらっ、苺々ちゃん!」

苺々を迎えたのは、いつもより少し豪華な料理。それから、

「見てこれ。すっごくがんばって作ったんだよー!」

その料理の真ん中に、自分が主役だとばかりに鎮座しているのは、白くて波打って花咲いて渦巻いた、美しい装飾品か最高級のレースかのような、あのケーキだった。

「18歳のお誕生日、おめでとう!」

桃歌が満面の笑みでそう言った。ああ、ああ。そういえば。すっかり忘れていた。今日は私の誕生日じゃないか。

「な、な、なんだ……」

苺々はその場にへたり込む。何ということだ。あの世にも美しいケーキは、桃歌の感情の捌け口のためではなく、自分を祝うためのものだったのだ。桃歌は怒ってはいなかったのだ。苺々の視界がゆるく滲む。桃歌の前でしか、見せることができないそれ。

「桃歌…桃歌……大好き!」

苺々は桃歌を引き込んで一緒に倒した。思い切り、力の限り抱きしめる。心から愛しい、心から大好きな少女を。抱きしめられた桃歌は、目を白黒とさせながらも、仕方がないなあ、今日だけ特別だよと、目の前の少女を抱きしめ返す。

二人のささやかで盛大なバースデーパーティーは、今始まったばかり。
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2005-09-16 00:16:09
PCは新しいのを買いましたよ(ノД`)

しばらく何も買えない何もできない。



トップページにも書きましたが、しばし雑記をお休みします。

でもとんでもないバグがあったりしてアナウンスが必要な時なんかのために、リンクはしておきますね。



ゴーストは、両方とももうちょっと時間がかかりそうです。

マイマイの次の更新で大量にファイルが降ってくることになりそうなので、ちょっと不安。



あとは…新ゴーストを無性に作りたくなっててどうしようとか。

シェルすら決まってないのになあ。

1stゴーストも出したいなあ。



ではではしばらくさようなら。
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